ツィドユウ
最強にして最狂のアンデッド
プロフィール
封印と実験の経緯から二名が同時に存在していおり、いずれか一つへの統合が彼女の望みである。
元来気まぐれな性格であり、時には同族であるアンデッドでさえ容赦せず悪戯の対象とした。その悪戯で死に至るものも少なくはなく、消滅したアンデッドも多い。好奇心を押さえることが出来ず、ありとあらゆる実験と悪戯を楽しんだ結果、膨大な知識と強大な魔力を手に入れた。その力は別世界の入口を開け閉めするまでに至り、危険と判断したほかのアンデッドらによって封印されている。バルカムット帝国建国前の話である。なお、彼女があけた穴は自然にふさがったものの、ふとした拍子に広がる事があり、サウロはその穴より落下してきたと目されている。
最狂のアンデッド
もともとアンデッド化の儀式は龍修行を簡易化させたもので、苦行ではあるが手順を正しく踏めばかなりの確率で劣化龍になれるノウハウであった。当然確立までの過渡期においては数多くの犠牲者が産まれ、中には本来の龍修行よりも厳しい内容の物もあった。
ツィドユウはその過渡期にアンデッドとなった一人で、彼女が修行をしていたころは厳しい自然環境を生き延びるためにほとんどの者がアンデッドを目指しており、一般的な人生を送った結果と言ってもよい。少なくともアンデッドになるまでは、だが。
アンデッドとなるとそれまでの寿命の概念が一気に変化し、加齢による衰えも緩やかになる。平均的な寿命というものに意味はなく、二度目の死が訪れる時期はムラが非常に激しい。多くの者が伸びすぎた時間をどう潰すかに悩み、ほとんどの者が何かしらの研究に没頭する。彫刻や絵画、音楽などの芸術、建築や手芸などの工業、商業や農業といった技術。料理以外のものはだいたい研究の対象となった。
彼女が選んだ第二の人生は科学的な研究であり、アンデッド修行と龍修行の相違点や効果、そもそもなぜ魔法などというものがこの世界にあるのかをテーマとした実験主体の内容であった。ほとんどのアンデッドがそうであるように、徐々に刺激に対して鈍感になるようになるため、暇つぶしのテーマは過激さをましていった。研究結果の派手さ、規模の大きさを望むようになり、そのために必要な力、周囲を圧倒する力というものを彼女は求めていった。
研究の派手さを求めるにしたがって、彼女に対する悪評は大きくなっていった。実験対象が動物などから人体へと変化していったのだから当然である。生きているにせよ死んでいるにせよ、人体を運んだものには報酬を出すなどの暴挙に出ており、周辺地域の治安は荒れに荒れ、とうとう一定範囲には人が住まなくなってしまった。実験材料が無くなった彼女は、まず人の体を運んできた野盗を殺害し自らの手駒とした。この手駒を使い、周辺都市からの人さらいを継続し、その中には周辺地域を支配していた龍が何名か含まれていた。
本来簡易龍であるアンデッドに龍が倒される、ましてや生きたまま誘拐されるなど起こりえないと考えられていたが、彼女はそのハードルをやすやすと越えてきた。まともな人格であれば新しい統治者として迎え入れることもできたであろうが、彼女は統治に一切興味が無い。被害と脅威に耐えかねた周辺都市群は連合を結成し、討伐軍が編成された。かくしてバルカムット地方初のアンデッド同士による大規模戦の火蓋が切って落とされたのである。
お互い知性のないアンデッドにより編成された部隊による戦闘は、いくら破損しようとも戦闘を展開し、人型ではないアンデッドが現場で急造されるなどの地獄絵図が展開された。質、量ともにツィドユウが大きく勝っていたが、知性あるアンデッドの人数では討伐軍が圧倒していた。初日での大敗から討伐軍は短期決戦から長期戦を選択し、昼夜関係なく波状攻撃を与える作戦に出た。
アンデッド操作には操作する本人が起床している必要がある。いかなツィドユウとはいえ不眠不休で何日も戦える訳はなく、敗北を悟った彼女は自身の研究室を異界へと移設し一旦退却を図った。しかし、討伐側も望みはツィドユウを串刺しにするなどの物理的な封印であったため目的を達成できず、苦肉の策として異界とつながった彼女の研究室とその出入り口を監視することとした。
この頃の監視体制はアンデッドが交代で行うものであったため人員コストも大してかからず、死体については共通の死体を用いることで輸送の手間を軽減していた。労力が少なかったため希望者が気軽に志願できる内容であったため、駐屯も小規模なものであった。死体の管理、修繕などのために生きた人間の手が少数加わる程度であった。
異界での研究
敗戦を教訓とすべくツィドユウは異界にて新たな実験を開始する。決定的に明らかな敗因は、動ける人員不足だった。これに対し、彼女は竜牙兵の存在に目をつける。龍が使役する竜牙兵は、意見はなくとも勝手に活動し、龍が寝ていても身の回りの世話を行う。この竜牙兵同様、献身的に自律行動を行う兵隊がいれば、自身が睡眠をとっている間にも戦闘継続ができるのではないかと考えた。
もともとアンデッドは簡易龍である。アンデッド使役の術は竜牙兵の簡易版で、素材を絞ったものに過ぎない。また、極まれに修行をせずとも自らアンデッドとなったものや、自分自身がそもそもアンデッドとして自律的な行動がとれているところ等から、自分自身が竜牙兵のヒントなのではないかと考えた。
しかし、いくらツィドユウが天才と言えども個人での研究には限界がある。そこで彼女は異界をぶんどるにあたって半殺しにして幽閉した龍をリサイクルできないか考えた。具体的には龍をアンデッドとして復活させた際、特定の状態の人格を埋め込めないかを模索した。
研究の結果、アンデッド修行の延長線上に、人格そのものが魔法の塊のようにして存在すること、特定の手順を踏めば複製が可能であることを彼女は突き止めた。複製した人格はなるべく早く肉体の器に入れなければシャボン玉のように破裂してしまう事、複製元と複製先が直接出会った場合、存在時間の長い方が生き残り短い方の人格は消失してしまう事。一部分だけを意図的に切り取って埋めることが可能である事などが判明した。
肉体の器としては脊髄もしくはそれに相当するものが存在すること。頭蓋骨など脳に相当する部位を守る部位が健在であることが条件となった。脊髄しかない場合、知性のないアンデッド同様使役しかできなくなる。脳を守る部位が存在すると、そこに脳があると勘違いしてその場所にとどまろうとする。収容スペース、肉体との比率に応じて知性にも変化が出ること。
原則として人間の人格を昆虫に入れようとした場合は動きに統一感が無くなり死亡し、逆に昆虫の人格を人間に入れようとした場合、あまり稼働せず発熱して崩壊した。人間から動物へは比較的違和感なく成功し、動物から人間は動きが鈍く、やはり発熱して死亡した。以上から人格の元の肉体と保存先は似たような構造のものが望ましいとされ、元の脳が大きなものから小さなものへは可能であるが、小さなものから大きなものは危険とされた。
また実験の過程において人格の融合なども試みられ、その結果人格そのものの融合よりも肉体を融合させた方が影響が大きいとする結果がでた。他、複数の頭部をもつ生き物を新たに作成した場合、必ず昆虫の人格を混ぜた方が統合された動きを持つなど、非人道的な実験結果がここで多数積み重ねられた。
これらの実験の成果として、彼女は複数の死体をつなぎ合わせた偽の龍を作り上げ、それに龍の人格を複製することにより人格の保存に成功した。龍でも死に至るであろう実験はすべてこの複製された人格に対して行われ、自律活動を行う竜牙兵モドキの生成の法が完成した。
逆襲及び本格封印
自律する竜牙兵に近いアンデッドを手に入れた彼女はこれらの使役を開始し、異界周辺の制圧を開始した。長い月日平穏であった監視の部隊は襲撃に対して対応しきれず、慌てて各自の祖国へと引き換えして報告を行った。
直ちに大量のアンデッド部隊が投入されたが、24時間戦うツィドユウのアンデッドに苦戦を強いられる。当初は寝ずの使役も良くもって3日と判断され防衛に努めていたが、4日経っても動きが衰えないところから睡眠を克服したのではないかという噂が立ち始める。
1週間が経過した辺りからこの噂は確信へと変わり、戦術の変更を余儀なくされた。危険を承知で突撃し強引な制圧が実施されたが、ここで予定外の異変が発生した。使役を行っていた知性あるアンデッドが突然知性を失い、ツィドユウの指揮下に入ったのだ。当然、知性を奪われたものが今まで指揮していた死体も味方に襲い掛かり、彼らも自発的な行動を開始していた。
連合軍は非常に危険な事態であると判断し、アンデッドの投入を禁止。生きた人間のみでの戦闘が開始された。距離を置けば問題は発生しなかったため、アンデッドらは前線から後方へと移され、輸送、装備の補充、製造などに充てられた。
戦闘はとにかく死体を破壊する、あるいは重量などにより動きを鈍くする方法がとられ、弓矢などは効果が薄かったため戦闘で使用される機会は少なくなった。軽く良く飛ぶものよりも、飛ばなくとも重いものが重視され、武器も切れ味よりも頑丈さ、生産の安易さが好まれた。
一番効果を発揮した武器は薬品による肉体の消化であった。しかし、分量を作ることが難しく戦果はあまり期待できなかった。次に効果を発揮したものは泥水だった。堀を作り、水を流し泥を作ることにより足元が鈍り、この隙に研究所周辺に少しずつ要塞が作られるようになっていった。
壁などは上から落として成立するよう、ハメコミ型の設計が考案された。巨大な石を運び、吊るし、適切な形に切り出すなど土木技術は大きく進化していった。
一方のツィドユウは壁を破壊するなどの行為に及ぶものの、竜牙兵らに戦術考案は不可能であった。戦術を検討し修正する人数の差が戦略の差として現れ、建築速度に破壊が間に合わず、研究所の上に深いダンジョンの形成を許してしまった。
ツィドユウは異界を強引に広げて建築された要塞の外から直接アンデッドを出現させようとしたが、連合側はさらに要塞を拡張し、様々なトラップを要塞内に設置した。さらに外側を大きな岩盤で覆い、巨大な山を作り上げた。これはツィドユウによる要塞破壊そのものを防ぐ目的があり、この岩盤の上にさらに迷宮や休憩用の建物などが建築された。出口を絞ることにより制圧が楽になり、動員される人数も徐々に減っていった。
制圧が容易になったと言えども自動で歩き回るアンデッドが消えたわけではなかった。トラップのメンテナンスなども必要であったため、不定期に内部に入り込んでは討伐が行なわれ、この間監視活動は何世代にもわたり継続されていた。伝説として語り継がれつつ実際にアンデッドが暴走するなどの実害があったため、この奥に危険な何かがいるのは事実であると多くの人が認識していた。
志願を募りつつ討伐を繰り返していたある日、名も無き青年がふらりとこの地を訪れた。アンデッドの支配が奪われるこの地で彼はアンデッドを使役しその奥へと足を踏み入れていった。彼はツィドユウよりもはるかに強力なアンデッド操作で最深部へと侵入し、大きくあいた異界への出入り口を封印し彼女の干渉を最小限に抑えることに成功した。
以後、ツィドユウ自身の影響力は衰えたが、死体を近づけると勝手に蘇る弊害のみが残された。異界そのものの完全な封鎖には至らなかったためである。が、討伐の継続とアンデッドを近寄らせなければそれほど問題にならず、長い戦争により疲弊していた人々は安堵の表情を浮かべた。
封印を施した青年はその後どこへともなく立ち去ったためその後の足取りを知るものは居ない。
異界の拡張
ほぼ完全に異界を閉じられたツィドユウであったがその程度であきらめるような彼女ではなかった。むしろ新しい研究ができたと喜び、異界そのものの拡張と、出入り口の拡張の研究を平行して行った。この時、外に残っていた状態のいい死体に自分自身のコピーを人格として竜牙兵の再生成を行おうとした。異界の出入り口に死体を外に出せるだけの大きさが無く、封印によりかつてのような広い範囲での使役が難しくなったためである。
自分自身のコピーは当初は竜牙兵を作成し、ダンジョン内を整理するなど期待通りの活躍を見せるが、次第に自我というものが芽生え始めた彼女は自身の存在に対する疑問を抱き始める。結果、自らの竜牙兵を用いて主であるツィドユウへと反旗を翻すようになった。彼女は自らを「理性」と名乗り、既存のものを「本能」と呼んだ。
外界においては相変わらず死体が勝手に蘇り定期的な討伐が継続されており、理性は彼らとの戦闘継続も余儀なくされていた。これは理性にとっても自身の兵隊を増やすチャンスでもあった。長い期間を経て巨大な戦力を得た彼女は、異界への直接攻撃を開始する。
一方、異界内の本体も自身の分身の不穏な挙動を理解していない訳ではなかった。異界への攻撃のためには出入り口を広げなければならない。本体はこの攻撃を利用して出入り口のさらなる拡張を目論んでいた。幾度となくぶつかっては縮小拡大を繰り返す出入り口は不安定な状態で飛び散る事があり、世界を満たす法則に不安定なムラを増やす要素となった。
このムラは台風が目を作るかのように、特定の条件下で別世界への出入り口を作り、次第にふさがっては別のところで穴ができるという副作用を産んでしまった。本来つながるべき異界から遠く離れた地点で生まれた穴はどこかの異世界と勝手に繋がり、異世界の何かを取り込んだり、送り込んだりを繰り返していた。この取り込みの中の一つがサウロである。
世界の穴は二人の戦いに決着がつくまで不定期に生成され、この世界には予想外の物が人知れず送り込まれ続けた。この拡張はヴィルソデモ・ティラーハが「理性」を倒すまで続けられ、出来上がった世界のムラは以後この世界と他の世界を不定期に結びつける穴として定着した。
利用mod
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- 最終更新:2020-09-08 06:17:07